あた〜らしい春が来た♪
 

「新婚さんバトン?」


     6




イエスがアルバイトで不在の中、
だったら自分は…と、フラットのお掃除に手をつけたブッダだったが、
日頃からのお手入れも丁寧にこなしておいでで、
だっていうのに、年末には大掃除も手掛けたという周到ぶり故に。

 「う〜ん、30分とかからなかったなぁ。」

そも、朝からこっち、特に何か出入りがあったわけでなし。
PCの操作をしつつお菓子を食べたり、
メモを取りつつ書き損じを丸めて、ごみ箱へ放って入れ損ねたり、
ついつい散らかしがちなイエスも今はいないとなれば、(おいおい)笑
埃を払って拭き掃除をし、畳の隅々にまで目を配ってハンディ掃除機を掛けるという、
毎日の習慣だけで、十分綺麗な状態へ戻っており。
窓からの明るい陽光に照らし出される、
清かな空間を取り戻した六畳間を見まわして、さて。
早くもすることがなくなっちゃったなぁと肩を落としたのも束の間、

 「…お買い物に出よっかな。」

本当はね、イエスのバイト上がりの頃合いを見計らい、
一緒に帰れるようにってお出掛けにしようと思ってた。
そうするのが合理的というか、
いっぺんに片付いて、あのその、丁度いいじゃないのと思ったから。
でもでも、手が空いたんだものしょうがない。
洗濯物を取り込むのはまだ早いんだし、
晩の食事の献立は…まだ思いついてないけれど、
外から帰ってくる人がいるんだもの、出掛けて体感した方がいいかもしれぬ。
実際、窓から見る分にはよく晴れていて暖かそうだったが、
上着を羽織って出てみると、
ジョギングにと出た頃合いとあんまり変わらぬ冷たい外気が頬を撫でたので、
これは温かいのを柱にした方がいいかもと、
肩に提げたトートバッグをひょいと揺すり上げ、

 “イースターのご馳走は、晩御飯だけ考えりゃいいかなぁ。”

階段を降りつつ思ったのは、近々に迫ったイエスの二回目のお誕生日のこと。
相変わらずに仲のいいペトロやアンデレたちが、何か楽しい趣向を考えているかもしれない。
なので、陽のあるうちは彼ら使徒の皆さんを優先してあげようと構えているブッダでもあり。
自分の贈り物だのおめでとうという言葉だのは、二人きりになってからで…

 “いやあの、だから…。///////”

へ、変な意味からじゃないんだからねと、
誰への言い訳だか焦りまくったその挙句、
真っ赤になったの振り飛ばすよに ぶんぶんぶんとかぶりを振ってクールダウン。
きょ、今日はちょっぴり冷えるなぁ、
花冷えってのかしら。
ああいや、まだ開花宣言もしてないのにそうとは言わないか。
それでもどこかから 花の蜜を吸うメジロだろうか小鳥のさえずる声も聞こえる住宅街から、
商店街のある沿線沿いへ向かい、ほてほてと歩みを運ぶ釈迦牟尼様で。

 “今夜のおかずは何にしようか。”

G旦那様の為に夕食の準備をします。何を作りますか?

わかめが旬だからタケノコと薄味で煮て若竹煮とか?
ああでも、そこまで春のメニューを出すのはまだ早いかな。
今日は白菜が売り出しだし、白菜のあんかけ風うま煮とか?
シイタケやエノキも入れれば食べごたえも増すし、
タケノコも、水煮のでよければそう高くないしなぁ。
ウズラも足したのごはんに掛ければ、中華丼風ってイエスも喜んでたものね。
大豆ミートで唐揚げを作って甘酢あんかけ…ってのも、イエス好きだよね。
ブロッコリーの茹でたのやアスパラへチーズを掛けてオーブントースターで焼いたのとか、
そうそう、グラタンもそろそろ食べ収めの頃合いだし、
コーン缶と玉ねぎが安いから、
あ、それだとかき揚げってのもいいかもしれぬ…と。
お料理好きで、しかもイエスの好みも把握してござる主夫としては、
自宅から持って来ていたスーパーのチラシを手元に観つつ、
あれこれバラエティ豊かなメニューを思いついては、
ああでもないこうでもないとのんびりと歩みながら思考を巡らせる。
青果のコーナーの特売品の中に、
四角く束ねられた青物の写真を見つけ、

 “菜の花の芽も出てるよね。”

春めきの前倒しが影響したか、実は相当早くに店頭にお目見えしていて、
逆にいや、
これからが本番な花見弁当や仕出しには使えないほど、
極端な品薄になることが危ぶまれているほどだとか。
湯がいて胡麻和えとか酢味噌で食べると春を満喫できるんだよね、
ああ春といや土筆も美味しいんだよねと
春ならではな食材を思い浮かべていたのだが、
ほこほことほころんでいたお顔が ここでやや固まって、

 “ああでも、イエスったら土筆は少し苦いなぁって言ってたかな?”

そういや、タラの芽の天ぷらも、縁起物だからと一つは食べるけど後が続かない。
シソも実はやや苦手ならしくて、
シソ昆布やゆかりのふりかけは大好きなくせに、
海苔巻きや和え物に不意打ちで入ってると箸が止まるようだし、
茶碗蒸しへの三つ葉もたまに残しているような…。

 “イエスって案外と子供舌だよな。”

ワサビの一本食いした男だと、
妙な折に持ち出しては胸を張るくせにね、なんて。
案外と多い好き嫌いに気がついたものの、
しょうがないなぁなんて吹き出してしまうところが、
まだまだアバタもえくぼな段階ならではの解釈で。
…気をつけなはれや、
もしももしも倦怠期に入れば、
そこがいいと思ってたところが全部嫌なところになりかねないからね。(こらこら)

 「…おや。」

トートバッグを提げてのお出掛け。
なのでか途中ですれ違う奥様層からもにこやかな会釈を向けられるブッダであり。
勿論、こちらからもこんにちはとご挨拶を返しつつ、
たったかと健脚を進めれば、駅前の商店街へなんてあっという間にたどり着く。
スーパーは少し奥まった辺り。
その手前にも店舗が散らばる商店街なので、
別に覗くつもりはなかったけれど、ああそういやとついつい意識してしまう店舗が見えて来て。
近づいてくるのへほのかにドキドキしておれば、
お店の中を見やるより先に覚えのある声が届いたものだから、

 “え?”

きょろきょろして探すまでもないことだけど、それでもどこだどこだと目線が泳ぐ。
だって今の声は間違いなくイエスのそれだ。
神通力まで繰り出すのは大仰、
それには及びませんと働いたのが 胸元に提げられた例の指輪で、
ふわんと温かくなって まずはブッダへ意識させ、
トレーナーとシャツの狭間、さほど空間はないはずなのにゆらりと触れてこっちと教えてくれたのが、
雑貨屋さんの店舗わきの路地の奥。
今日は陽が照っていて屋内なら暖かいからか 小窓が一つ薄く開いており、
そこからのお声が外へも漏れて聞こえたらしい。
実質の店長は奥様で、そのお嬢さんも学生時代からお手伝いをなさってた関係か、
従業員も女性が主体。
お母様への急な看病で休んでおいでの人以外にも販売員のかたがいて、
都合3人ほどで店を回しているらしく。
客足が引いている隙にということか今時分に昼食を取っているようなのが伺えたのは、

 「あ、イエスさんたらお弁当自前?」
 「あ、うん、そうだよ。」
 「もしかしてブッダさんに作ってもらったんでしょう。」

そんなやり取りが拾えたから。

 「ブッダさんてお料理上手なんですってね。」

そうと続けた女性が
なんかお手製のクッキーやカップケーキは
食べるといいことがあるって聞いてるしとまで口にしたので。

 “え? それって奇跡が働いてるとか?”

いやまあ、少しは影響が出てるらしいって、私も先だってのケーキで気づいちゃおりますがと、
直接 会話しているイエスのみならず、洩れ聞いただけのブッダの方でも
ドキッとしつつもしょうがないかと流してしまわれかかったものの、

 「よく若い奥さんが子供や旦那が野菜を食べてくれないって相談に乗ってもらってるし。」
 「そうそう、ひとみちゃんがアスパラガス食べられるようになったのって、
  ブッダさんに教わったベーコン巻きのハチミツ掛けがきっかけだもんね。」
 「は、はちみつですか?」

ああそれはイエスには縁がないメニューだもんね、びっくりしちゃってるな さすがにと、
結構大胆なことへ驚いているの、自分へのことだってのに くすすと吹き出しておれば、

 「あ、これ一つ頂戴vv」
 「えー。ダメですよぉ。」
 「唐揚げと交換しようよぉ。」
 「これ、困っておいででしょ?
  それにそれってコンビニで買って来たんでしょうに。」

店長さんらしい女性の窘める声がして、
ばれたかと笑ったお声に重なって、

 「じゃあ、一つだけですよ。」

そうと言ってイエスが応じたのはどうやら玉子焼きだったらしく、

 「あ、マッシュドポテトが挟まってるvv美味しいvv」

ほんのり甘く味付けしたのを芯になるよう挟んであって、
ポテトサラダが余ったの、試してみたら案外イケたのでと
以降もたまにご披露しているメニューだったりし。

 「五目いなりも美味しいのよね?」
 「え?何でご存知なんですか?」

だって、いつだったかお祭りの準備で集まったときに、
炊き出しの一部を、おにぎりじゃなくお稲荷さんにしてくれて。

 「山菜が美味しく煮てあって美味しかったのよね。」
 「そそそ、そうですか。////////」

何でだかイエスが猛烈に照れまくっているのが、
懐の指輪の温まりようでも伝わって来て。

 “え〜い、今夜は茶碗蒸しおまけするぞvv”

ブッダの側はブッダの側で、やはり真っ赤になりつつも、
どういうついでか、そんな風に心に決めて。
今になって誰ぞかに見咎められたらとでも思ったか、
そそくさとスーパーに向かって歩みを進めたのでありました。







  もちょっと続く。(笑)



BACK/NEXT


 *もたもたしているうちに、もうイースターになってしまいます。
  先日、マツコ・デラックスさんが、
  ハロウィンの次はイースターかよと
  お祭り騒ぎだけしたいような日本人の節操のなさに
  まったくもうもうと怒ってらっしゃいましたが、
  実際、どういう行事か判ってる人はハロウィン以上に少なかろうなぁ。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

拍手レスもこちらvv

戻る